「なぜ、そうしなかったのか?」を検証する②環境の力には勝てない
飲食業の世界に足を踏み入れて30年、この世界の厳しさを十二分に感じてきた。
それを含めて、飲食店経営者としての哲学がある。
・利益率の低い(10~15%)飲食店経営では、バックヤード(本社家賃、人件費)はとにかく軽くしておかなければならない。
・戦後70年間、飲食企業(特に居酒屋業)で天下をとった企業は皆無。栄枯盛衰の激しい業種、家賃が異常に高い東京で後発企業が、飲食店経営を長くやり続けられるとは到底思えない。
「運」とは、その人と成りが引き寄せるもの。状況的に恐らく8割方の人が東京移住を決断したであろうが、特に慎重派の私は思いとどまった。
人がうらやむもの、派手なもの、かっこいいもの、それらに対しては、斜に構えて見るクセが付いている。(単にへそ曲がりなだけです)
「契約満了ですよね?色々とお世話になりました。ありがとうございました。」定時の家主企業との打合せの際、私の方から切り出すと、想像もしていなかったのだろう、担当課長はビックリした顔をしておられた。
(何かにつけ、平気で呼び出し、上から目線で対応する家主企業に対して、常日頃から気に入らなかったのは確かである)
翌年(2017年7月)、惜しまれつつ新宿店閉鎖。(東京撤退)
2020年3月、新型コロナウィルスによる、需要の蒸発→大不況期に突入。
仮に新宿店舗が残っていて、いくら家賃を相場よりも安くしてもらっているといっても、営業自粛で売上ゼロならば、月額賃料4200千円はさすがに払えない。
もし2016年に東京へ移住していたら、新宿店は契約期限切れだったとしても、何らかの形で首都圏で出店を続けていただろう。
すると今頃は、正に地獄を見ていたのかもしれない。
結果論にはなるが、あの選択は本当に正しかったと言える。
新型コロナウィルスを予測した人など、この地球上に1人もいなかったとしても、右肩上がりの好景気は、いつか調整期(リセッション)を迎える日が来る。
パンデミックは単に、調整の為の「理由付け」と見ることもできる。
欲をかき過ぎない、何事もほどほどに・・・(=中庸)というのは、人生哲学では最高の教訓ではあるが・・・それよりも、数年先の(経済)環境を予測する、景気循環の波を考える。それらの方が余程重要であると改めて思う。
私達は自分の力で稼いでいるように思っているが、我々小動物は、しょせん環境の力に勝つことなどできないのだ。